宮島細工とは?
特徴/Description
宮島細工は、広島県廿日市市宮島町で作られている伝統工芸品(木工品)です。宮島細工は、木地仕上げが多く、木本来の持ち味を生かしており、自然に育まれた木目の色調や手触りを十分に生かした伝統工芸品となっています。
宮島細工の最大の特長は木目の美しさにあり、ロクロを使う丸盆などの挽き物、木地を削り出す角盆などの繰り物、そして手彫りで厳島神社など描き出す宮島彫りなどがあります。
宮島細工の起源は、鎌倉時代、厳島神社の再建に携わった宮大工の技術に由来するが、嘉永年間(1848~1854)にもたらされたロクロ技術、彫刻技術によって、その技は芸術の域まで高められました。
江戸時代、宮島の山は幕府の藩の管理下にあり、松や杉などは勝手に切ることは出来ませんでした。しかし、それ以外の木は雑木と呼ばれ、木工細工物の材料として使われていました。
日本三景のひとつである宮島は、古くから「神の島」と伝えられています。鎌倉時代初期、神社や寺を建てるために鎌倉地方、京都地方から大工、指物師が招かれました。その技術の流れをくむ伝統工芸品が現在の宮島細工です。江戸末期には、杓子を始めとして,ロクロ細工,刳物(くりもの)細工,宮島彫りなど幅広く日常生活に使用されるものが多く製作されました。木地仕上げが多く,木本来の持ち味を生かし,自然に育まれた木目の色調や手触りを十分に生かした製品が多く作られています。
広島県北部の県境には豊富な森林資源があり、宮島のある廿日市地区が木材の集散地であることから、木工品としての宮島細工は発展しました。
宮島細工の杓子は、ご飯に木のにおいが移らず米粒がつきにくいという使いやすさで知られており、生産量は日本一を誇ります。
他にもろくろを使って丸盆や茶托など丸型のものを作る「挽き物」、四角の角盆を手作りの刃物で作る「刳り物」(くりもの)があります。「宮島彫り」とは、盆の表面や衝立、柱などに手彫りされる写実的な模様の装飾彫刻です。塗りは必要最小限に抑え、材質本来の木目模様の美しさや手触りを存分に生かした木のぬくもりを伝えてくれます。
歴史/ History
宮島細工の始まりは江戸時代末期の1人の僧侶により、その歴史がスタートします。1800年頃(江戸時代、年号は寛政の頃)宮島の僧・誓真(せいしん)は、宮島で信仰している弁財天が手にしている琵琶の形から杓子(しゃくし)を考案しました。そして島民にその作り方を教え、土産品として販売を始めたのです。その品質の高さはたちまち評判となって飛ぶように売れ、おかげで貧しかった島民の生活は徐々に改善されました。誓真(せいしん)の考案した杓子は島の経済を復興させる大きな力となったのです。
1850年頃(嘉永の頃)、ろくろ技術が宮島に導入されてからは宮島の木工技術は更に発展し、ろくろを使った丸盆や茶托などの木製品が作られるようになりました。また、甲州(山梨県)の彫刻師・波木井昇斎(はきい しょうさい)によって彫刻技術が伝えられ、木製品の表面に装飾として彫られるようになりました。その写実的な美しさは評判となり、宮島彫りと呼ばれるようになりました。
宮島で発展した木工技術は1910年前後(明治末期頃)に隆盛を極め、優れたろくろ技術を学ぶために全国から300人近い職人が宮島に集結し、技を磨いたと伝えられています。
制作工程/ General Production Process
刳物細工(杓子)
1.木取り
原木にノコギリを入れて製造予定の作品の寸法など考えながら製材していく作業を「木取り」といいます。この時によく使われるのが「歩留まりを良くする」という言葉です。1本の原木からなるべく無駄が出ないように、原木の性能や品質を考えながら製材していくという意味になります。杓子の原材料としては、クワ、檜、もみじ、ミヅメサクラなどが使用されます。製造予定の杓子の寸法や用途など考慮しつつ歩留まりが良くなるように、原木に手鋸(てのこ)で印をつけ、ノコギリで切り分けてゆきます。そして、杓子の大まかな形を手斧(ちょうな)で切り出しておきます。
2.乾燥
本格的な加工に入る前にあらかじめ乾燥させることで変形や収縮を防ぐ役割があります。1~2年ほどの長い時間をかけてじっくり乾燥させることで高品質の杓子を作り出します。
3.中くり
まずは顔(ご飯をすくって乗せる面)部分を、外丸鉋(そとまるかんな・くぼんだ丸い曲線を彫ることに適した形の、手のひらサイズの小さな鉋)で横方向に削ります。木目に対して垂直に削ることを「横削り」といいます。次に四方反り台鉋(しほうそりだいかんな・平らな板を曲げるだけではできない複雑な曲面を彫り出す鉋)で横削りし、中央部分を更にへこませます。刃引き(はびき・刃をわざとつぶして切れないようにした刃物)で顔全体を削り、仕上げとして紙やすりで顔をなめらかに整えます。・背中削り顔と反対の面を背中と呼びます。この部分をまず外丸鉋で背中を縦削りし、杓子の先を薄く整えます。この背中を削り杓子の厚みを決定する作業は、職人の長年のカンが試される難所です。次に豆平鉋(まめひらかんな・小物の加工に適した小さな鉋)で削り、紙やすりで丁寧に磨きます。
4.柄つくり
顔の次は柄部分に取り掛かります。柄の裏面を反り台鉋(そりだいかんな・凹凸面を削る鉋)で削り、握りやすい形にします。そして柄尻(柄の先端部分)の表面を手斧で削り、豆平鉋で面取りをして曲線をつけ、形を整えます。
5.研磨
杓子全体を紙やすりで磨き、鉋目(かんなめ・鉋の削り痕のこと)を削り取ってなめらかに整えます。研磨は何度も丹念に行われます。
6.拭きこみ
仕上げに植物油を塗布し、1日置いてから乾いた布で拭きます。(水含みを良くする目的で何も塗られないこともあります)以上で完成です。
ろくろ細工(挽き物)
1.木取り
原木を見て、その表面の状態から性質を把握し、作りたい製品に適したものを選び取ります。原材料としてはケヤキ、桑、肥松(こえまつ・松脂が多く含まれ、幹の太い松)、ヤマザクラが用いられます。作る予定の製品が彫り出せる大きさに鋸(のこぎり)で切り出し、自然乾燥させます。乾燥期間は2、3か月程度です。
2.型取り
製材の木目を生かせるように製品の形を下書きし、鋸で切り出します。宮島細工は塗りをほとんど施さず木目をそのまま生かしてあることが特徴なので、型取りは製品の表情を決める大事な作業になります。
3.荒挽き
型取りを済ませた製材はろくろにつけて外形を整えてゆきます。10種類の丸鉋(まるがんな・凹凸面を削る鉋)で荒挽きをし、片刃(かたは・包丁状の片方だけに刃の付いたもの)で余分な部分を落とします。その後、平鉋(ひらがんな・刃が平らな鉋)で整え、サンドペーパーを使って磨きます。ろくろの回転速度などの微調整は、職人としての長年の経験と勘で行います。
4.割れ止め
荒挽きの後乾燥に入りますが、その前に割れ止めを行います。木をそのまま乾燥させると亀裂が入るので、専用の割れ止め剤、またはロウを溶かしたものを表面に塗ります。
5.乾燥
製材を自然乾燥させます。1年~3年ほどかけて、しっかり乾燥させます。
6.粗仕上げ
挽き乾燥した製材をろくろにつけ、全体を大まかに挽きます。こうして時間をかけて少しずつ完成の形に仕上げてゆきます。再び割れ止めを施し、更に自然乾燥させます。
7.仕上げ
挽き10種類以上もの鉋を使い、最終的な形を削り出してゆきます。
8.仕上げ
磨き紙やすりまたはサンドペーパーを使い、仕上げの磨きを施します。何度も何度も丁寧にやすりをかけ、製品の形をなめらかに整えて完成です。